からだの中でもっとも大きな臓器であり、糖質やたんぱく質などの代謝や貯蔵、有害物質の排出などの重要な役割を担っているのが肝臓です。しかし肝臓は「沈黙の臓器」とも言われ、がんの初期段階ではほとんど自覚症状がありません。肝がんとはどんな病気で、治療法にはどんなものがあるのでしょうか。本記事は、 2023年2月27日発売の『手術数でわかる いい病院2023』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けします。
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■ウイルス性の肝がんは減少傾向。メタボが原因の患者は増加中
肝がんの多くは、C型・B型などの肝炎ウイルスによる肝炎が進行して肝硬変になり、その結果がんを発症します。かつては肝がんになった人の9割以上がその流れでしたが、近年その割合は減少しているのです。
「C型肝炎治療が進み、肝硬変を予防できるようになったからです」と話すのは、武蔵野赤十字病院消化器科部長の土谷薫医師。
「といっても肝がんの患者がとても減っているわけではありません。ウイルス性が減ったぶん、アルコール性肝障害や、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が原因でがんになる人の割合が増えているのです。C型肝炎やB型肝炎の人は定期的に検査をするので、がんも早期に見つかるのですが、脂肪肝は自覚症状もなく、脂肪肝だからといって定期的に検査を受ける人はまだ多くありません。そのせいで進行した状態で見つかる肝がんが増えてきました」
■肝がんの再発率は5年で7割程度。「次の治療」も視野に手術する
肝がん(肝細胞がん)による死亡者数は、膵がんに次いで5番目の多さです。
その背景には、手術のむずかしさがあります。杏林大学病院肝胆膵外科診療科長の阪本良弘医師は、肝がん手術についてこう話します。
「肝がんの患者さんは、肝機能に余力がないこともしばしばありますから、切除範囲や切除方法の見極めには経験が必要です。手術前に患者さんの肝機能に応じた切除計画を立てなければ、術後に肝不全をおこしかねません。また、手術機器や切除方法の進歩で手術中の出血量は減っているものの、大量出血は肝不全の引き金となります」