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 膵臓にできる膵がんは早期発見がむずかしく、がんが見つかったときにはもう「手術できない」という段階になっていることも少なくありません。がん全体の平均5年生存率が60%を超えるなか、膵がんは約10%。その理由と、生存率を向上させるための新しい治療法についてまとめました。本記事は、 2023年2月27日発売の『手術数でわかる いい病院2023』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けします。

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■膵臓がんの5年生存率が低い三つの理由

 膵臓は、胃の後ろ側にある細長い臓器です。たんぱく質や脂肪を消化する膵液や、血糖値を下げるインスリンを分泌する役割があります。ここにできるがんを膵がんといいます。

 膵がんは近年増加しているがんの一つで、高齢になるほど増える傾向があります。がんの発生部位別の死亡数は、肺、大腸、胃に次いで第4位。患者数は年々増えています。

 膵がんの死亡率の高さにはいくつか理由があります。

 一つめは、早期発見がむずかしいから。がんが小さいうちはほとんど自覚症状がありません。がんが大きくなって膵臓の中を通る胆管を圧迫すると、胆汁(肝臓で作られる消化液)が血管内に逆流し、皮膚が黄色くなる黄疸(おうだん)がでます。また、便の色が白っぽくなったり、尿が黒くなったりすることもあります。インスリンの分泌が悪くなって糖尿病の症状が悪化することもあるので、気づいたらすぐ受診したいものです。

 二つめの理由は、膵がんは広がりやすく再発しやすいから。膵臓は重要な血管やリンパ節に囲まれているため、血液やリンパ液の中にがん細胞がはがれ落ちて他の臓器に転移しやすいのです。手術をした時点で転移がなくても、画像では確認できないレベルで転移している可能性もあります。

 そして手術の難度が高いことも、膵がんの特徴の一つです。なかでも「膵頭十二指腸切除術」という術式は、切除した膵臓、胆管、胃を腸とつなぎ合わせる大手術。合併症が起こる可能性も高いのです。なかでも膵液(膵臓からでる消化酵素)が漏れ出す合併症は、膵液が腹部の血管を溶かし、大出血につながりかねません。

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手術可能かどうかの判断は慎重におこなわれる