■手術しなければ生き残れない。手術可能かの判断基準は?

「これだけのリスクを冒してでも手術するのは、手術した人しか完治が望めないからです」と話すのは、奈良県総合医療センター副院長の高済峯医師です。

「近年、手術だけで完治する患者さんも増えてきましたが、何がなんでも手術すればいいわけではありません。からだに大きな負担をかけて手術しても、すぐに再発して亡くなってしまう患者さんも少なくない。それはあまりにも残念です」

 そこで、手術可能かどうかの判断は慎重におこなわれます。そのときの基準のひとつが、以下の「切除可能性分類」です。

(1)切除可能……手術でがんの切除が可能
(2)切除可能境界……手術をしてもがんを取り残す可能性がある
(3)切除不能……遠隔転移がある、あるいは広がりすぎていて手術してもがんを取り切れない

「切除可能境界になった場合、手術するかどうかの基準は病院によって違いますが、治癒率を高めるために手術前に抗がん剤治療や放射線治療をおこないます。手術できない場合にも抗がん剤による化学療法をおこないますが、それで完治することは通常ありません。発見時に切除不能でも、抗がん剤などの治療で効果が出た場合には、切除に持ち込める場合があります。その場合、『手術すれば完治できる』という人を慎重に検討して手術するかどうかを判断します」(高医師)

■膵がんになったらまず抗がん剤。切除不能の人にも手術の可能性が

 膵がんは進行の早いがんです。もたもたしているとがんが広がってしまうので、以前は診断がつくとすぐに手術をしていました。

 しかし最近は「まず抗がん剤治療」というのが膵がん治療の基本になっています。膵がんに対して効果のある薬剤が生まれたことで、ここ数年で膵がん治療に大きな変化が起きていると話すのは、順天堂大学順天堂医院肝・胆・膵外科主任教授の齋浦明夫医師です。

「手術の前に抗がん剤を投与することでがんの勢いが止まったり、小さくなったりする可能性があることがわかりました。効果が出ると、『切除可能境界』や『切除不能』の患者さんでも手術ができます。それで助かる人も増えてきています」

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手術と化学療法で治療成績をあげる