作家・画家の大宮エリーさんの連載「東大ふたり同窓会」。東大卒を隠して生きてきたという大宮さんが、同窓生と語り合い、東大ってなんぼのもんかと考えます。10人目のゲスト・隈研吾さんとの対談を振り返ります。
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隈さんを誤解していたのである。
至る所に隈さんの建築がある。決して建築に詳しい方ではない私でも知っている建造物最多の建築家。隈さんは、東京オリンピックのスタジアムもそうだけれど、とにかくコンペに勝つ。ここも隈さん、あそこも隈さんか、と感じることが多かった。
それは同じように他方からも耳にした。とにかく、隈さんが多すぎる(笑)、と言ってもいいかもしれない。だから、隈さんってよく存じ上げないけれど、もしかして節操ないのかな?(失礼)とも思っていたけれど、お会いしてお話ししたら全然違った。たぶん、自分をよく見せようってことをしないのだと思う。それは対談の原稿の際に思った。
少年時代の隈さんのアイドルだった黒川紀章さんの作品が、のちにだんだん好きではなくなっていく話のくだりだけれど、そもそも憧れのアイドルだった経緯や好きじゃなくなる理由もあってこその“黒川さん好きじゃない”が納得なのだけれど、当初の対談原稿ではそこが割愛されていたのに隈さんはOKを出していた。私はそういうのが気になってしまうタイプである。補足した方がよくない?と思ったのは私だけだった。
え? 本人は気にしてないの? 隈さんは、もしかして、自分がどう思われようと気にしない人なのかなと思った。自分の見せ方みたいなものはどうでもいいという潔さを感じた。ただやりたいことをやる。下手な小細工などいらないのだ。白紙になったオリンピックスタジアムのザハ案を、「あれは技術的に建築できた」と隈さんは言い、「未完の建築家と揶揄(やゆ)したのはマスコミの罪」とも言った。なんだか悔しそうだった。隈さんも観たかったのかなと思った。そしてその後、まさか自分がやるとは思わず参加したというお気楽さ。そう、隈さんは軽やかなのだ。全国飛び回っているけれど、心もスキップしてルンルンと軽やかなのだ。