「以前、勤務していた動物病院は、クレーマー気質の飼い主さんへの対応に気を使い、時間を取られてしまうことが多かった。結果として、話をきちんと聞いてくれる素直な飼い主さんにはリソースを割けない状況があり、“これはどうなんだろう?”という疑問を常々持っていたんです。だから、自分の動物病院では“人によって態度や治療方針を変えない”を基本にしています。必要で適切な治療を行うためには、ときに厳しいことを飼い主さんに伝えることもあります。結構なお金がかかってますもん。飼い主が変わっていかなくちゃ、ちゃんとした治療ってできないんです。だから、言葉を選ばずに言えば、問題のある飼い主さんにNOと言える病院を目指しているって感じですかね」
■アニメ監督と獣医師の共通点は?
アニメーション監督としての転機になったのは、茨城を舞台にしたオリジナルアニメ―ション『あぐかる』。発注を受けて制作した作品ではなく、制作費はすべて持ち出しだったという。この作品をYouTubeで観たProduction I.G(『ジョーカー・ゲーム』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』などを手がけるアニメ制作会社)のプロデューサーから依頼があり、アニメ『翠星のガルガンティア』のスピンオフ作品『ぷちっとがるがんてぃあ』などを制作。この作品が話題を呼び、芦名さんはアニメーション監督としての評価を高めることになった。
その後も『怪獣娘~ウルトラ怪獣擬人化計画~』『異世界かるてっと』『夜は猫といっしょ』などの話題作を制作。現在、スタッフは約15人に増え、こちらでも経営者としての顔を持つことに。獣医師、アニメ監督、経営者。まったく違う資質が求められるように感じるが、芦名さんは「人に喜んでもらえる仕事という意味では、獣医療もアニメ制作も同じ」だという。
「大変なケガや病気をしたペットを治せたときに見せてくれる飼い主さんの笑顔は何度見ても嬉しいですし、自分たちが作ったアニメの面白かったという感想をSNSなどで見るのも楽しい。結局、どちらも人を笑顔にする仕事なんですよ。やればやるだけ人を笑顔にできる。最高ですよね。仕事内容にも共通点があります。ちなみに、大切なことも共通すると考えています。獣医療もアニメ制作も、いちばん大事なのは観察力。観てくれる相手が何を考えていて、どこまで理解できるのか、どういう視点で見てくるのか、自分の紡ぐ言葉に対してどう相手が反応するのかを正確に見極めることが必要なんです。だから、動物病院での飼い主さんとやりとりしたときの予想外の反応がアニメの脚本のヒントになる、ということもあったりしますね」
また、他者の評価を自分で決めるのではなく、広く人の話を聞くことも重要だと言葉を重ねる。
「最近は他人を“使えない”と見切ったり、興味のない話を聞かなかったりする人が増えていると思いますが、それは本当にもったいない。どんな人、どんな生き物であっても、接することで得られることがあるし、その経験値を話聞くだけでもらえるなんて最高じゃないですか。実質タダですよ。僕はスナックで“知らないおじさんの自慢話”を聞くのも結構好きですし(笑)」