8日、米国防総省は米国本土を飛行したのち撃墜された中国の気球について、数年に及ぶ偵察活動の一環だと明らかにした。一方、中国外務省は「気球は気象などの研究に使われている民間のもので、今回は偏西風の影響を受けてコースから外れてしまった」という姿勢を崩していない。これについて、防衛省防衛研究所政策研究部防衛政策研究室の高橋杉雄室長は「語るに落ちた、ということだと思います。『カバーストーリー』が本当に甘い」と指摘する。
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「カバーストーリー」というのは、文字どおり、不自然さを感じさせないよう、何かを隠すために流布する情報である。
「つまり、今回の場合、中国が主張する『民間』って誰だ、ということです。気球を撃墜されたら、それを運用する気象予報業者が米国に対して損害賠償を請求するような話になるはずですが、その民間事業者が全く姿を現さない。もしかしたら、中国は『U-2撃墜事件』を思い出したのかもしれませんが、苦しまぎれに気球の目的を『気象観測』と言ったのでしょう」
「U-2撃墜事件」は、1960年5月、旧ソ連領内を飛行していた米国の偵察機「U-2」がソ連軍のミサイルによって撃墜されたことから始まった。
当初、米国は「気象データを収集していたNASAの航空機が機器の故障で、誤ってソ連領空に入った」と釈明した。
ところが、墜落する機体からパイロットがパラシュートで脱出。その後、逮捕され、U-2の飛行目的が偵察であったことが明らかになった。緊張関係にあった米ソの間はさらに深刻化した。
「事の良し悪しは別として、U-2撃墜事件のとき米国は、飛行機の所属について『NASA』とまで言ったわけです。それに対して、今回の中国の対応を見ると、きちんとしたカバーストーリーを準備してこなかったことを感じます。これまでに何回も同じ活動を行ってきたのに、まさか、こんなかたちで暴かれるとは、まったく想像していなかったのでしょう」