さらにもう一つ、アメリカでおこなわれた臨床試験では、新規の分子標的薬に高い腫瘍縮小結果が出たことから、注目が集まっている。
「この分子標的薬はVHL病(複数の臓器に腫瘍性、嚢胞性の病変ができる常染色体顕性遺伝の病気)というがんではない病気に対して、FDA(米食品医薬品局)で承認されました。この薬は腎がんでも同じような効果が期待されており、現在、第III相の臨床試験がおこなわれています。日本でも将来使えるようになる可能性が大きいです」
実は、腎がんは従来の殺細胞性抗がん薬の有効性が認められにくいがんの一つといわれていた。実際、これまでに国内外で数多くの臨床試験がおこなわれてきたが、いずれも失敗に終わっていた。期待された薬もあったが副作用が強すぎたため、途中で投与をやめてしまう被験者が多かったことも、有効性を示すことができなかった一つの理由と考えられている。
一方で、腎がんでは分子標的薬が有効であり、ステージIVの転移・再発がんで使用される分子標的薬は現在では、7種類も存在している。
具体的には、ステージIVのファーストラインではマルチキナーゼ阻害薬のスニチニブやパゾパニブ、カボザンチニブ、mTOR阻害薬のテムシロリムスが標準治療で、セカンドライン以降では先に使わなかった薬に加え、アキシチニブやソラフェニブ、エベロリムスを使うことができる。さらに、現在は最初からこれらの分子標的薬に免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療戦略へと変化してきている。
ただし、効く薬には副作用がある。種類によって出やすい症状は異なるが、下痢や食欲不振や手足症候群(手や足の皮膚が炎症を起こした状態)などが代表的なものだ。こうした副作用対策をしっかりおこなっていくことが、治療を継続する一つのカギになることは確かだろう。「そういう意味では、いろいろなタイプの薬が使えるようになったことは大きい。前の薬で生じてしまった副作用が少ないと予想される薬を、次の治療で用いるなどの工夫ができる」と松原医師は言う。