清水映輔医師。気分転換術は、アイスホッケーをプレーして思い切り体を動かすことだという(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
清水映輔医師。気分転換術は、アイスホッケーをプレーして思い切り体を動かすことだという(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
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 医学の進歩や高齢化などにより、新時代を迎えている医療界。医師免許を取得したあとの働き方においても選択肢が広がっている。週刊朝日ムック『医者と医学部がわかる 2023』では、医師でありながら起業家としても活躍する清水映輔医師にお話を伺いました。

【写真】眼科診療スマホはこちら!

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 世界には、眼科診療が行き届かず失明する人が多くいる。原因の半数以上を占めるのは白内障だ。早期発見と適切な治療で治る疾患だが、発展途上国では眼科にかかる習慣もなく、人々はいわば「みすみす」光を失っている。 

 この現状を打破すべく、2016年にベンチャー企業「OUI Inc.(ウイインク)」を立ち上げたのが、眼科専門医の清水映輔医師だ。同社では、いつでもどこでも眼科診療ができる独自の医療機器「SEC(Smart Eye Camera)」を提供する。活動の原点となったのは、医療支援ボランティアでベトナムを訪れたことだった。 

「現地で20年以上、無償で白内障の治療を行う服部匡志医師のもとに派遣され、農村部での眼科診療に携わりました。現地には眼科の診療機器が一切ない。ペンライトの光で患者の眼を見ますが、電池も粗悪なのですぐに切れてしまう。すると現地スタッフが、スマートフォンのライトを使い出したのです。それを見て、スマートフォンに取り付けて眼科診療ができる機器を作れないだろうかと考えました」 

 1年半の試行錯誤の末にSECを開発。スマートフォンのカメラに付けて眼の写真を撮るだけで、一般的な眼科診療で用いられる細隙灯(さいげきとう)顕微鏡と同程度の診断が可能となった。 

「開発時は、電源不要なことや小型で装着が簡単なことのほか、貧しい地域でも使ってもらえる価格にすることも重視しました。製造コストは3Dプリンターを活用することで抑えました」 

スマートフォンに取り付けたSEC。眼科診療に適したスリット状の光をつくり、的確な診断をすることができる(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
スマートフォンに取り付けたSEC。眼科診療に適したスリット状の光をつくり、的確な診断をすることができる(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)

 SECを使った撮影は、スマートフォンが扱えれば誰でもできる。つまり医師がいないへき地でも、SECがあれば、遠隔で眼科医に診断してもらえるようになったのだ。現在は撮影画像のAI診断も開発中で、すでに臨床試験段階に入っているという。さらに清水医師は、SECを眼以外の診断に生かす方法も模索中だ。例えば一般的に「下まぶたが白っぽいと貧血」と言われる。そうした傾向をより科学的に実証しながら、全身の健康状態もチェックできないかと考えている。 

「現在はベトナムやマラウイ、ケニアなどの発展途上国を含めた20以上の国や、日本の離島でもSECが導入されています。現場の方に『とても使いやすい』という声をいただくと、本当に手応えを感じます」

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