中でも世界に衝撃を与えたのが、電撃的な首都キーウ制圧作戦だ。キーウ北近郊のホストメリの空港に大量の兵員輸送大型ヘリコプターが飛来。降り立った空挺部隊が空港を占拠し、ウクライナ軍と激しい銃撃戦になった。一部は少人数でキーウ市内にも侵入し、かく乱を狙ったゲリラ的な銃撃戦も始めた。
キーウではその日、防空シェルターになった地下鉄の駅に人々が殺到。首都脱出をはかる車が大渋滞を作り、鉄道駅では西部に向かう列車に乗ろうとする人で一時的なパニックが起きた。
ただ、間もなく、短期間でウクライナのゼレンスキー政権の転覆を狙ったとされるプーチン氏のもくろみは外れる。
ホストメリのウクライナ軍部隊はロシア軍に一部のゲリラ部隊の首都侵入は許したが、それ以外は進軍を郊外で食い止めた。空港施設を破壊し、後続部隊の着陸も不可能にした。ホストメリの北30キロのデミディフ村では、ドニプロ川の水門を破壊し、一帯を水没させて、地上からキーウを目指し南下してきた戦車部隊を押しとどめた。
そして、プーチン氏のウクライナ侵攻は迷走を始める。ウクライナの市民と双方の兵士に多大な犠牲を強いながら。
本章(『検証 ウクライナ侵攻10の焦点』第1章)では、ロシアの攻撃があるのかないのか、不安にさいなまれた侵攻前のウクライナの人々の表情や、その間も挑発的な攻撃を繰り返した親ロシア派武装勢力とウクライナ軍の戦闘の前線の様子、侵攻開始直後のキーウの混乱、激しかった首都制圧戦をめぐる攻防を、ルポや現場からの証言で伝える。
《朝日新聞による1年余のウクライナ取材の集大成となる新刊『検証 ウクライナ侵攻10の焦点』では、兵士の肉声や激戦の真実、虐殺の全容などを詳述。10の角度から侵攻の実態を浮き彫りにしている》