ソフトバンク時代の大場翔太
ソフトバンク時代の大場翔太

 プロでの通算成績は目立たないものの、1試合限定ながら、球史に残る伝説的な投球を披露した投手が存在する。

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 2008年にドラフト1位でソフトバンクに入団した大場翔太もその一人だ。

 前年の大学・社会人ドラフトで6球団が競合した大学通算33勝、410奪三振の“鉄腕”は、3月23日のデビュー戦、楽天戦で、パ・リーグの新人初の無四球完封でプロ初勝利。さらに4月5日のロッテ戦では、一世一代の“奪三振ショー”を演じる。

 初回、先頭の早川大輔をスライダーで空振り三振に切って取った大場は、4回まで9奪三振。うち7つまでスライダーを決め球に仕留めた。1回2死のオーティズから3回の早川まで7者連続三振の無双ぶりだった。

 そして、5回からは140キロ台中盤の速球で押し、柔から剛にモデルチェンジ。千葉マリン特有の強風を味方に、風でホップするような“魔球”で打者を幻惑する。6回1死の今江敏晃から7回1死の西岡剛まで4者連続三振を奪うなど、終わってみれば、パ・リーグの新人投手では史上初の16奪三振完封勝利。出場打者9人全員から奪三振というオマケも付いた。

「腕が振れてたし、完璧だったね。攻めの投球の典型だった」と王貞治監督も絶賛。この時点で、大場は新人王の“大本命”だった。

 だが、その後は勝ち運に恵まれず、登板13試合で14被本塁打と一発病も露呈。一発を食わないよう、コントロールを気にするあまり、しだいに腕も振れなくなり、5月中旬以降勝ち星なしの3勝5敗、防御率5.42という尻すぼみの成績でシーズンを終えた。

 そんな苦闘の日々を経て、大場は11年に7勝と復調の兆しを見せたが、右肩を痛めて低迷。現役最後の2年間(最終年は中日)は1軍登板もないまま、通算15勝21敗、防御率4.39でユニホームを脱いだ。

 16奪三振といえば、ヤクルト時代の山田勉も93年9月10日の広島戦でセ・リーグタイの16奪三振を記録している。同年から2年連続10勝を記録した山田だが、通算成績は30勝20敗14セーブと大きくはばたくことはなかった。山田と同じ93年に巨人戦で16奪三振を記録したヤクルト・伊藤智仁も相次ぐ故障に泣き、通算37勝27敗25セーブと“江川2世”の本領を発揮できずに終わっている。「16」は投手にとって“鬼門の数字”なのかもしれない。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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デビュー戦でいきなり“伝説の投球”