例えば、気球の顔と自分の顔が連動していて、気球が撃たれてしぼむと自分も死ぬ設定にしたのは、解決策をなくすことで主人公を追い詰めるためだ。同じ理由で、気球についているロープも鋼鉄製にして、ハサミで切れないようにした。
私見ではあるが、物語に切迫感や恐怖感を出すためには、こうしたディテールの部分をないがしろにしてはならないと思う。そうしないと「気球を撃てばいいじゃん」とか「ロープ切ればいいじゃん」といった具合に、いくらでも逃げ道が考えられてしまい、主人公が焦っているのが馬鹿らしく見えてしまう。
主人公がそうせざるを得ないような「縛り」を設けることも、物語を考えるうえでの重要なポイントのひとつだろう。
(伊藤潤二著『不気味の穴――恐怖が生まれ出るところ』から一部抜粋・再編集。著作の中では、先生が影響を受けたものや作品の裏話、「唯一無二な発想法」を明かしている)