33歳は働き盛りだったはずだ。なのに「継続的な責任ある立場に就いたりすることは控えてきた」というのだ。「男女の差や役割の違いは特別にない」と認識しているにもかかわらずそういう行動になったのは、「その立場を離れる」ことが念頭にあるから。そう語っている。

 何ともったいない、何とつらいことだったろうと思う。

 紀宮さまの抑制的な言葉からわかったのは、皇室典範第12条は「結婚退職」の明文化なのだということだ。男女雇用機会均等法が成立して35年も経つのに、職場としての皇室は女性の結婚退職が明記されている。

 それでも紀宮さまが公務に励んだのは、美智子さまの教えがあったと思う。「皇族として生活させていただく」間は「それにこたえるような人」になってほしい。冒頭に紹介した言葉は、「結婚退職」までの皇族女子の心得なのだ。

 紀宮さまから少し離れる。「女性宮家」を考える時、ずっと引っかかっていたのが、「皇族女子の気持ち」だった。彼女たちは、婚姻後も皇室にとどまりたいのだろうか。「制度」と「当事者の気持ち」、そのはざまで考えを先に進めにくい。そう思っていた。

 眞子さま(28)は、小室圭さん(28)との結婚を心から望んでいる。多分、それは間違いないだろう。その気持ちに「皇室を出たい」という要素はないだろうか。佳子さま(25)は19年、眞子さまの結婚について「姉の一個人としての希望がかなう形になってほしいと思っています」と文書で述べている。これには佳子さまの、「自分もいつか、皇室を出たい」という気持ちはないだろうか。

 つまり皇族女子は女性宮家を歓迎していないのではと思っていた。が、33歳の紀宮さまの言葉に触れ、考え方を変えた。何のための女性宮家か。そこをはっきりさせることが大切なのだと思うようになった。

 皇室の人員減少は明らかだ。だから「対策」も必要だろう。対策としての「女性宮家」だと理解はするが、「目的」が見えない。長く働いてきた立場から、一般の職場に置き換えてみる。

「人手不足が深刻なので、とにかく結婚しても辞めないで」。これだけに見えるのが「女性宮家」で、これではテンションが上がらない。「これからは責任ある立場に就いてほしい。そのために制度を変えるから残ってほしい」なら全然違う。前向きに考えられる。

 眞子さまが、「責任ある立場」に就きたいかどうか、それは正直わからない。だけど、今も国際基督教大学大学院在学中で、「インターメディアテク」という博物館の特任研究員をする眞子さまだ。紀宮さまも学習院大学卒業後、山階鳥類研究所に非常勤職員(のちに非常勤研究員)として勤めた。叔母と姪。真面目で働き者の系譜だと想像する。

 真面目で働く意欲がある皇族女子に「結婚退職」しか道を示していない。それが今の皇室だとするなら、責任ある立場に就ける道を開く。それが「女性宮家」なのではないだろうか。そう思うと、この問題が自分のこととして見えてくる。

 皇族女子は、私の隣にいる。そんな気持ちで『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(幻冬舎)を書いた。今月末に出版される。菅官房長官が語った「具体的に様々なことを進める」4月は目前だ。議論を注視せねばと思う。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2020年3月16日号

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