深夜にかけて雨脚はさらに強まり、平地部には防潮堤の上からあふれんばかりに水が溜まった。平地部にある別の住民の納屋は、1.5メートルほども浸水したという。

 今回、蛤浜が冠水したメカニズムはごく単純だ。大雨で沢が増水し、排水路に入り切らない水が地上へあふれ出る。あふれた水や平地部に降った雨を排水路へ導くためのグレーチング(排水溝のふた)や海へつながる排水口そのものが土砂や流木によってつまり、排水されなくなる。そして、防潮堤が水をせき止めることであふれた水が行き場を失い、内側に溜まっていく。

 排水路の計画を担った石巻市の漁業集落整備課によると、国の指針に則って10年に1度の大雨に耐えられるよう、排水路を整備したという。

「震災前よりも排水路を広げるなどの対策をしています。しかし、台風19号では想定を超える雨が短時間で降ったことで、結果として排水しきれずにあふれ出してしまいました」

 今後、沢水が排水路に入る「呑み口」を広げるなどの対策を取る予定だという。しかし、防潮堤が水をせき止めたとの指摘に対しては、「担当課が違う」と明確な回答を避けた。

 実は、蛤浜では以前から、数年おきに大雨で沢水があふれ出していた。20年ほど前に浜の上部でトンネルが整備されたことにより沢の流れが変わり、同じ箇所に水流が集中するようになったためだという。ただ、昨年8月に復興工事が完了するまでは防潮堤がなかったため、沢からあふれた水はすべて海へ流れ出し、集落や道路が冠水することはなかった。

 冠水する危険は、防潮堤整備を含む復興計画が持ち上がった段階から、市の担当者に何度も訴えてきたという。しかし、市からは“排水のための溝を増やすから大丈夫”との回答しか得られなかった。(編集部・川口穣)

AERA 2020年3月16日号より抜粋