東日本大震災後、津波から街を守るために建造された防潮堤。だが、豪雨の際、防潮堤の内側の集落が冠水するケースが出てきた。事前に冠水のリスクは指摘されていた。AERA 2020年3月16日号から。
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巨大津波から命や産業を守る──。東日本大震災を経験した東北沿岸では震災後、そんな号令のもと、次々と防潮堤の計画が持ち上がった。岩手・宮城・福島の被災3県で計画総距離は約400キロ、総額1兆円が投じられる見込みだという。なかには10メートルを超える巨大な防潮堤を整備する地区もある。故郷の景色を完全に変えてしまう巨大建造物の計画は、地元の世論を二分した。「毎日防潮堤を見て暮らすことはできない」と街を離れた人も少なくないが、今も各所で工事が進んでいる。
だが、災害から街を守るための防潮堤が、新たな“災害”を引き起こすケースがあった。
宮城県石巻市の牡鹿(おしか)半島にある小集落、蛤浜(はまぐりはま)は昨年の台風19号で大規模に冠水した。
蛤浜では東日本大震災以降、海に近い平地部が人の住めない「災害危険区域」に指定されており、住宅はすべて高台にある。そのため、冠水による人家への被害はなかった。だが、漁具などを収めた納屋や車が水没。翌日午後に近くの浜の住人が水をくみ上げるポンプを届けてくれるまで、完全に孤立したという。
原因は、防潮堤が水をせき止めたことだった。
蛤浜の区長、亀山貴一さん(38)は言う。
「防潮堤が水をせき止めて冠水してしまうリスクは、計画が持ち上がったときから住民全員が指摘していました。これは自然災害ではなく、人災だと思っています」
去年10月12日に静岡県・伊豆半島へ上陸した台風19号は、関東・甲信地方に猛烈な雨を降らせながら太平洋岸を北上、深夜には東北地方に達した。亀山さんが異変に気付いたのは、台風が最接近する前の夜10時ごろだった。
「沢からあふれた水がものすごい勢いで家のすぐ近くを流れていました。海沿いを見ると、防潮堤が流れた水をせき止めていて、どんどん水位が上がっていくのが見てとれました」(亀山さん)