福島第一原発の事故からまもなく9年。原発近くの「避難指示区域」に住む人々は「強制避難者」となり住む場所を追われた。さらに生活の不安から、区域外であっても自ら避難する「自主避難者」も多く出た。いずれも原発事故で生活を破壊された被害者だが、「強制避難者」には国から多くの支援や賠償がある一方で、「自主避難者」のそれはごくわずか。住宅支援に至っては終了している。AERA 2020年3月9日号では、自主避難者たちが直面する厳しい現実を取材した。
【写真】多くの自主避難者が避難してきた 国家公務員宿舎「東雲住宅」
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福島県は昨年8月、東京湾岸の江東区東雲にある国家公務員宿舎「東雲住宅」に自主避難し、住宅の無償提供期限が切れた17年4月以降も契約を結ばないまま住み続けている5世帯に対し、2年分の賃料相当分として各世帯50万~200万円、計約600万円の支払いを求める方針を決めた。
「不安で仕方がない」
提訴対象となっている50代の男性は声を落とす。
震災前、男性はいわき市に暮らし、市内の会社で通訳の仕事をしていた。しかし原発事故で会社は閉鎖され東京に避難。そこで勤めた会社も倒産し、精神的なストレスからくる心臓疾患と精神障害を患った。今も障害のため定職に就くのは困難で、病院に通う。貯金で食いつないでいるという。
福島県の経過措置に対しては「一方的で納得できない」と拒否し、未契約のまま住み続ける事態が続いた。県の通知によれば、男性は2年分の賃料約50万円を支払い宿舎も出ていかなければならない。だが、現状ではほかに住むところはない。
県には「以前のような収入は見込めない。次の住居が決まれば支払いのメドが立つので待ってほしい」と訴え、都営住宅に申し込んでいるが、9回も落ち続けている。
昨年11月、県の職員が訪れ、
「お金を払って今月中に出ていかなければ提訴します」
と告げた。提訴のタイミングについて県は、本誌の質問に、
「代理人弁護士と協議している」
と回答。いつまでに提訴をするかという「ゴール」は決めていないと答えた。
いつ提訴されるかわからない不安とプレッシャーの中、男性はこう話す。