確かにホームレスの自立支援を促す法律の整備も手伝って、全国的に路上生活者は見当たらなくなった。けれども、この30年、奥田が見てきた貧困の連鎖や無縁状態の人々の姿は、今や社会全体の様々な場所で拡大し常態化しつつある。奥田の言葉を借りるならば「社会が路上に追いついた」のだ。
奥田の出身は滋賀県大津市だ。家族はキリスト教とは無縁。母方の祖父は神主だった。小学生の頃、友人に誘われ教会学校へ。そこで、現在、国際弁護士として活躍する平野惠稔(しげとし 56)と出会う。
「中学時代、奥田は風貌(ふうぼう)も同い年にしては大人っぽく、いわゆる“ワル”の連中からも一目置かれていました。サービス精神が豊富な、冷静なリーダータイプ。サッカー部のキャプテンもしましたし、教会では2人でバンドを結成してローリング・ストーンズや憂歌団を大音量で弾いてました」
この教会の牧師やクリスチャンとの出会いが、奥田にとって初めての家以外の居場所、まさに「ホーム」となる。
実は奥田にはコンプレックスがあった。後に超難関の京都大学法学部を受験し、現役で司法試験に合格する超エリートの平野とは対照的に、奥田は仲間内では一人だけ高校入試に失敗。県立の進学校ではなくクリスチャンでありながら仏教系の私立高校へ行くことになる。また大学受験の際も志望校への入学は叶わず関西学院大学神学部へ進む。別にこの時点で牧師になろうとは思っていなかった。単なる滑り止めだった。
「この頃の私の人生は思うようにならなかった。勉強ができない自分が許せなかったし、どこかで孤独を感じていました」(奥田)
(文/中原一歩)
※記事の続きは「AERA 2020年3月9日号」でご覧いただけます。
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