新年会に参加していた元ホームレスの西原宣幸は今、ホームのありがたさを実感しているという。路上生活は11年間に及んだ。

「路上生活者の多くは、最後は畳の上で死にたいと言います。けれども自立してアパートに入り、これで一安心と思いきや、今度は俺の最期は誰が看取ってくれるのだろうかと不安になる。つまり家が手に入っても喋(しゃべ)る相手が誰もいないのでは、ひとりで路上生活していたときと何も変わらないのです」

 この新年会に集まるのは元ホームレスだけではない。障害のある人、シングルマザー、刑務所出所者……。奥田は普段からこうした一人で生活するのが難しい人々を自宅に招き入れ、時に共同生活を送ってきた。奥田にはSEALDsを立ち上げた長男・愛基(あき 27)、長女・光有(みう 22)、次男・時生(とき 19)の3人の子どもがいるが、学校の先生や友だちに「何人家族?」と聞かれて、「えーっと」と答えに窮する逸話は、きょうだいの間で語り草となっている。

 夜が更けるにつれて一升瓶が次々と空になる。酔いも手伝って、ケンカが始まる。周囲がそれを止めに入って一件落着となるのもお約束だ。飲みすぎて吐く者もいる。酒が進めば皆が語り始める。いつしか、去年、交通事故で亡くなった仲間の話題になった。ここでは「支援する者」と「支援される者」の垣根はない。大勢の、最初は見ず知らずの他人が、一人の人間の人生をまるで一つの物語を語るように共有し、泣き、笑う。

 奥田は家族は記憶の装置だと話す。そして「出会いから看取りまで」を信念に、無我夢中で走り続けてきた32年は、「家族機能の社会化」に奔走した日々だったと振り返る。

「バブル崩壊後、経済の縮小によって非正規雇用や失業者、単身一人世帯などが増加。それに伴い従来、家族が担っていた子育て介護、見守りや看取りなどの機能が失われてしまいました。それを回復しなければならない。私に言わせれば、それは赤の他人となんちゃって家族になればいいということ。それも絆の質ではなく量を重視して、なるべく大勢の人と出会い、家族として繋がる仕組みを作ってきました」

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奥田が抱いていたコンプレックスは