AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
作家で俳人の長嶋有さんによる『俳句は入門できる』は、季語、句会、同人活動から「俳句を行使する」方法まで、俳句の意外な魅力を紹介した一冊だ。著者の長嶋さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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テレビ番組「プレバト!!」の俳句コーナーが人気になってから、書店の「俳句コーナー」がにぎわっているが、芥川賞作家・長嶋有さん(47)によるこの本はひと味違う。
「俳句はただでさえ厳しそうだと思われているので、いわゆる入門書では過剰に『楽しいですよ』と優しい顔をする傾向があります。でも実際にやってみると、俳句に限らず醍醐(だいご)味のある世界はどこもそうでしょうが、厳しいわけですよ。だとしたら『こんなふうに厳しい世界だよ』と知っておくほうが、初心者の役に立つんじゃないか、と思うんです」
長嶋さんは24年にわたって、句会、同人活動、句集作りなどに携わってきた。「小説 野性時代」の野性俳壇というコーナーでは、俳人・夏井いつきさんと選者を務めている。
19年度は月に1回、「NHK俳句」での選者を担当。稲垣吾郎さんをゲストに招くなど、斬新な企画が話題になった。
「俳句というと、まず五七五や季語などのルールを思い浮かべますが、どこでどんなふうに俳句を作るかという場所も大事です。たとえば句会に参加したときに感じることについて、僕自身の経験を書いています」
第1章の冒頭に登場するのは、長嶋さんが使っていた「俳号(ペンネーム)」をやめるきっかけになったエピソードだ。
「俳号はつけてもつけなくてもいいものだから、普通の入門書には書いていないんですよ。僕の場合、10年以上名乗っていた俳号を、ある俳人に『よくない』と言われて、やめました。たまたまその方と最後に会ったときに言われたので、遺言のように思ったんですね。ともあれ句会に出て、『その俳号はやめたほうがいい』と言われるなんて、滅多にない経験です。これは書いておかなくちゃ、と」