「顔が見えない電話相談ならではの率直な心の奥底からにじみ出るような訴えもあり、医療側の対応がきっかけで通院をやめてしまったという人も、少なくありませんでした」(河合医師)
■「食べれば治る」「食べなさい」では解決しない病気
患者が医師や治療に疑問を持つ背景には、この病気ならではの「治療の難しさ」がある。摂食障害はダイエットをきっかけに始まることが多いが、単にやせたいだけの病気ではない。心の不調がからだの症状に大きく影響を与える「心身症」の一つで、からだと心の両面から治療が必要だ。河合医師は言う。
「たとえば患者さんが医師から言われてとまどった言葉の中に、『食べれば治る病気』とか『もっと食べなさい』というものがあります。ほっとラインの電話口で、『言われて食べられるくらいだったら食べています』と悲しそうに語る人もいました。からだを心配して治療する内科系の医師にしてみれば正論なのですが、患者さんは理屈ではわかっていても太りたくない気持ちが強くて食べられない。それがこの病気の特徴で、点滴で栄養を入れればすべて解決するわけではないから、患者さんはどうしていいかわからず困っているんですよね。ここの部分を患者さんと話し合いながら、時間をかけて解決の糸口を探すのが、治療の第一歩です。とはいえ、現行の保険診療では患者さん一人にかけられる診察時間が限られてしまうのも事実です。診療報酬制度については、国とも交渉を続けています」
■摂食障害を専門的に診療できる医師はごくわずか
摂食障害は、心身症を扱う「心療内科」の得意分野だ。しかし日本心身医学会と日本心療内科学会が認める合同認定制度の専門医は279人のみ(22年2月1日現在)。専門医がいる医療機関も偏っていて、重症者の受け入れが可能な入院病棟を持つ病院となるとさらに限られる。
「心療内科の看板を掲げているクリニックには、摂食障害を専門的に診療していないところも多いようです。一方、内科や精神科、小児科、婦人科などで働く医師の中にも、摂食障害に詳しい医師はいます」(河合医師)