介護職を中心に17カ国約50人の外国人スタッフを雇う社会福祉法人が神奈川県にある。採用に技能実習生は活用しておらず、直接雇用だという。AERA 2020年3月2日号では、この社会福祉法人で働く上海出身のスタッフの日常やグローバル化に至る歴史をたどった。
【写真】「クロスハート幸・川崎」創設者の片山さんと理事長の足立さん
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「こんにちは、今日はお天気が良くていいですね」
金宇キ(きん・うき/キは王へんに奇)さんが笑顔で話しかけると、お年寄りがほほ笑み返す。JR川崎駅から車で5分ほどのところにある特別養護老人ホーム「クロスハート幸・川崎」。
介護職として働く金さんは中国・上海出身の33歳。父がもともと日本に働きに来ており、その縁で20歳の時に日本に留学した。語学学校や大学を卒業して、新卒で2014年に施設の運営母体である社会福祉法人伸こう福祉会に就職し、以来この施設で働き続けている。
就職先にここを選んだのは、「介護主任も中国人で、ペルー出身者など外国人が多くいて、働きやすそうだったからです。他の会社にはそんなに多くの外国人はいませんでしたから」。
日中関係は微妙な問題も抱える。不安はなかったのか。
「もちろんありました。お年寄りは日中戦争のこともあるし、中国人のことを嫌いかな?と思ったり」
働き始めたらそんな不安は吹き飛んだ、という。
「逆に、利用者さんも自分が外国人であることを気遣ってくれました。『外国から来て大変ですね、がんばって』とか」
とはいえ、最初の頃は、言葉の壁や文化の違いで戸惑ったこともあった。例えば、利用者に「『おひや』が欲しい」と言われた時、理解できなかった。中国にはそもそも、冷たい水を飲む習慣がないからだ。
利用者と世代が違うため、言葉が理解できないこともあった。
「例えばスプーンという言葉は知っていましたが、『おさじ』を求められても理解できませんでした。方言も難しい」
利用者から「日本語が上手ではないね」と言われたこともあったが、ほかの日本人スタッフに質問したりして克服した。昨年、「介護リーダー」に昇進したのだという。