作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「ババア」問題について。
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同世代の女友だち3人と日曜のカフェでおしゃべりしていたとき、すぐ隣でチーズケーキを食べている20代女性2人の会話が耳に入ってきた。
「35歳までに結婚してなくて、子どももいなかったら惨めだよね。え、そんなのは絶対避けたい!」
あらら、すごい話聞いちゃったっ!と、チラ見したい欲望をかろうじて抑えながら、耳に入ってくる会話に心がざわついてしまう。
「うちら高校を出てから8年? ヤバイヤバイ、もう、ババアじゃん!」「わはは、ババアだよババア」
注文したブルーベリーラッシーをゆっくり飲みながら、話しかけちゃおうかしら、という気持ちにもなる。「あのぉ、ババアってどういう意味ですか? 私、あなたたちのちょうど2倍生きてるけど、ババアの意味がわからないのよ、教えて」。んー、気持ち悪いよね、やらないほうがいいよね……と己の気持ちをたしなめつつ、故・石原慎太郎氏の「ババア発言」は2001年だったね、もう22年も前になるんだなぁと、ため息をつきたくもなる。
当時、名だたる女性活動家たちが裁判をおこし、石原慎太郎氏の過ちを認めさせようとしたのは記憶に新しい。それでもいまだに「ババア」という言葉は生々しく侮蔑語として活用される社会だ。悲しいことに、もしかしたらあの当時よりも、「産むなら若いうちに。産みたいときに産めなくなりますよ」というプレッシャーや、「結婚しなければ、老後は貧困になりますよ」というプレッシャーに若い女性たちは晒されているのかもしれない。もしかしたら彼女たちの周りの30代には、結婚せず子どものいない女性が存在しないのかもしれない。または結婚せず子どものいない30代が「本当に不幸」に見えるような環境で生きているのかもしれない。それは地獄かもしれない。
その後、彼女たちは「ヤバイ、ババアになっちゃう」と焦るだけでなく、「早く相手を見つけよう」とマッチングアプリの登録を始めた。「170cmは最低ほしいよねー」とか言いながら、別のマッチングアプリに登録したときは写真審査に落ちちゃったから気をつけて、とかなんとか情報交換している。こちらのテーブルでは50 代の女たちが尿漏れ対策について話をしていて、それはそれで……なのだが、カフェでチーズケーキを食べながら、35までに子どもを産まないと悲惨ー!と叫び、お買い物をするような感じで条件にあった男を指で探す20代が、もっと楽に自由になれればいいのにね……と祈るような気持ちにもなる。