初来日で日本の観客と触れ合い、より想いを強めた。

「この世のものではないもの、言葉で言い表せないものを大切にして受け入れる、そうした土壌が日本にはある気がする。アメリカでは物事が額面通りにしか受け入れられないことも多く、曖昧なものに対しての忍耐があまりないんだ」

 溝口健二「雨月物語」(53年)や小林正樹「怪談」(65年)をはじめ、新藤兼人、大島渚など、影響を受けた日本映画や監督の名が次々にあがる。文学では安部公房や、遠藤周作の『沈黙』『留学』がお気に入り。相当な勉強家にして、やさしく穏やか。目の前のチャーミングな笑顔から、あの「いや~な物語」が生み出されるとは意外でならない。

「本当に怖いのは、物静かなヤツなんだよ」

 その笑顔の奥が、やっぱりちょっと怖いかも。

◎「ミッドサマー」
白夜の祝祭を舞台に描かれる前代未聞のフェスティバル・スリラー。21日から全国で公開

■もう1本おすすめDVD「ヘレディタリー/継承」

 監督アリ・アスターの名を世界に知らしめた長編デビュー作「ヘレディタリー/継承」(2018年)。批評家からも「現代ホラーの頂点」と絶賛され、映画史に名を刻んだ。

 緑の森の中に立つ重厚かつモダンな屋敷。その家でグラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘でドールハウス作家のアニー(トニ・コレット)は、夫と高校生の息子、そして内向的な娘(ミリー・シャピロ)と、粛々と祖母の葬儀を行う。

 しかし、その日から屋敷に奇妙な出来事が起こりはじめる。部屋に浮かび上がる不思議な光、話し声……そんななか、一家にとって最悪な事件が起こり──?!

 いまだに「いや~な」シーン、「いや~な」音が目と耳から離れないホラー。ミニチュアのドールハウスを効果的に使った映像センス、舞台装置へのこだわりなどに「ミッドサマー」への布石を感じる。

 洗練された現代性に「後ろに何かがいる?!」といった古典的な手法が同居する感覚は、監督がインスピレーションを受けたという日本文化の伝統と現代性のミックスに通じているのかもしれない。怖がりさんも試す価値はあり。

 ……かなり残るけど。

◎「ヘレディタリー/継承」
発売・販売元:カルチュア・パブリッシャーズ
価格3800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2020年2月27日号