AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
* * *
「いま、ハリウッドが最も仕事をしたがる監督」と言われるアリ・アスター(33)。世界を震撼させたホラー「ヘレディタリー/継承」に次ぐ待望の新作で、スウェーデンのある村の夏至祭(ミッドサマー)を訪れたアメリカ人の若者たちの驚愕の体験を描いた。
「僕は自分が興味を持ったものを綴りたいし、それしかできない。この映画に取りかかったのは彼女と別れたばかりのときで、だからこれは人と人との別離を描いた、僕なりの失恋映画でもあるんだ」
ヒロイン・ダニーと恋人は、祝祭を控えた共同体に招かれる。美しい風景と咲き乱れる花々。笑顔の人々。だがそこには古くからのしきたりや儀式が根付いていた。監督は5年前にスウェーデンのプロデューサーから「夏至祭をテーマにしたホラーを」と持ちかけられ、国の歴史や民間伝承などを詳細に調べたと話す。
「スウェーデンはある種の閉鎖的な社会で、豊かな伝統と同時に白人優性主義に基づく人種差別や暴力の歴史も持ち合わせている。でも、それはどこの国でも同じだ。僕にとって重要だったのは一見楽園のようで、美しく思える物事にも底流に醜さというものが存在すること。そしてそれは自分で見ようとしなければ、簡単に目を背けてしまえるものだ、ということなんだ」
明るい陽光の下で起こる惨劇は、人間が根源的に持つ恐怖や「いや~な感じ」をこれでもか、とついてくる。
「僕はすごくシニカルで悲観主義者だ。自分の見ている世界が何らかの形で作品に表れるのかもしれない。でもメロドラマも好きだし、壮大なオペラもエモーショナルをかき立てる作品も大好きだ。決してダークな世界だけを描きたいわけじゃない」
少年時代は吃音がひどく、つらい思いをしたという。それでも幼少期に映画に魅せられ「この道しかない」と進んできた。本作では今村昌平の「神々の深き欲望」(1968年)にも影響を受けた。
「以前から日本の文化にずっと惹かれてきたんだ。特に超伝統主義と最先端の現代性がぶつかり合っているところが最大の魅力だと思う」