そして京都工芸繊維大の事例でも分かるように、懸念の3点目は、高額な費用がかかる点だ。対象者が約8千人のプレテストの予算は1億円。対象者が約8万人に増える本格実施では、さらに費用がかかると見られる。
「スピーキングテストを導入できるなら、するに越したことはない。ただし、テストの実施や採点にかかる膨大な手間やコストに見合う『話す力』がつくかは疑問です」(羽藤教授)
スピーキングテストを導入するにはまず、日頃の指導を通して「話す力」を育てる土壌ができていなければならないと羽藤教授は強調する。
「テスト対策のための定型的な練習は時間の無駄づかい。日頃から適切な環境で適切な指導をしなければ話す力は育ちません。テストは現にある能力を測るためのものですから、過剰な期待をかけることなく、日頃の指導を改善していくことが必要です」
スピーキングテストを巡っては、福井県が民間活用の英語スピーキングテストを高校入試に導入しようと検討していたが、昨年11月に見送る決定をした。理由の一つが費用面だ。県教育委員会の担当者は言う。
「受験者が約7千人いて費用が約4千万円必要。工面が困難でした」
スピーキングテストは「反対」とする都立中学の英語教員(40代)は、都内でも地域格差が生じると危惧する。
「自治体によって状況は異なるが、英検やベネッセコーポレーション(本社・岡山市)が運営する『読む・聞く・話す・書く』の英語4技能検定GTEC(ジーテック)の受検料など各自治体の負担はすでに増えつつある。各学校でスピーキングテスト対策を講じることになった場合、さらに負担が増えることも懸念される」
この英語教員の中学には、すでに企業からスピーキングテストを見越したテスト対策の教材の売り込みがある。財源の乏しい市区町村によっては、購入できなかったり、できたとしても他の予算にしわ寄せがいったりするのではないかという。
今後、高校入試の段階でスピーキングテストの導入を模索する動きは広がる可能性が高い。自治体間の経済格差によって子どもたちの学習機会が奪われることがないよう、配慮も求められている。(編集部・野村昌二)
※AERA 2020年1月20日号より抜粋
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