高校国語の新学習指導要領で「文学」が激減し、2、3年生で文学に触れずに卒業する生徒が出る可能性もあり、教科書の定番だった夏目漱石の『こころ』を読まずに卒業する可能性も。選択科目を「論理」と「文学」に分ける必要があったのか。文学界も巻き込んだ論争が起きている。
AERAは昨年11月、インターネットを通じて、アンケートを実施し、254人から回答を得た。教科書で出合った「心に残る作品」の質問には、国語の好き・嫌いや年齢を超え幅広い回答があった。コメントのひとつひとつから、多感な時期に出合う作品の影響力の大きさや、心に刻まれる深さが伝わってくる。AERA 2020年1月13日号より紹介する。(< >内は作品より引用)
【契約書か漱石の『こころ』か、どちらかしか学べない? 高校国語の新学習指導要領に困惑の声】より続く
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1位 『山月記』(35人)
■中島敦『山月記』
<ともに、わが臆病な自尊心と、尊大な羞恥心とのせいである。>
「思春期で自尊心とエゴと怠惰の塊だった私にとって、李徴は私だった。自分の心を作者がそのまま美しい文章に写し取ってくれている……そんな妄想を抱くほどのめり込んだ」(57歳女性・元国語教員)
「プライドは時に人生をも狂わす。そのことを高校生のうちに知ることができて良かった」(17歳男性・高校3年生)
2位 『こころ』(18人)
■夏目漱石『こころ』
<精神的に向上心のないものは、馬鹿だ>
「『手紙を読む』形式によって、段々自分が主人公になったかのような錯覚に陥った。書き手の技術によってここまで物語に入り込むことができるのかと感動した」(22歳男性・大学4年生)
「『もう取り返しが付かないという黒い光が、私の未来を貫いて、一瞬間に私の前に横たわる全生涯を物凄く照らしました』という表現は、自分の言葉に置き換えられない。それが作家の力だと思う」(41歳女性・元教員)
3位 『舞姫』(14人)
■森鴎外『舞姫』
「男の身勝手さに、同性ながら腹を立て読んだ。しかし今になってみると、そこには普遍的な『人間の弱さ』がしっかりと描かれていたのだと思う」(60歳男性・国語教員)