「私たちすべての被害当事者に対する侮辱です」(山本さん)
性被害者に対する社会の偏見は根深い。危険なところにわざわざ行ったから、被害者にも落ち度があったのでは……。こんな風潮が長い間、性被害者を二重三重に苦しめる。
伊藤さんの代理人を務める西廣陽子弁護士は、山口氏の発言の背景には「嫌なら必死に抵抗したはずだ」など、ゆがんだ「強姦神話」があると指摘する。
「このように言われることで、性犯罪被害者は傷つき、二次被害に遭ってきました。しかし、『本当の性犯罪被害者は笑ったりしない』のでしょうか。性犯罪に遭っても、自分の生活を送らなければならないし、自分の人生を前向きに生きていくことが認められて当然。このような型にはめる考えを捨て去る時代に入ったのではないでしょうか」
山口氏は控訴を表明したが、彼の発言が、裁判で彼に優位には働かないだろうと西廣弁護士。
「もし影響すれば、このような考え方、偏見に裁判所がお墨付きを与えることになる。性被害者に対する、理解のない時代に後戻りしてしまいます」
内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(2017年度)によれば、女性の13人に1人、男性の67人に1人が無理やり「性交等」をされた経験があった。しかし、性暴力被害を警察に相談した割合は、わずか3.7%。性被害を打ち明けられない背景には、打ち明けても偏見をもたれるだけ、という疑心暗鬼がある。前出の山本さんは言う。
「性暴力や性犯罪は身近にあり得ると理解し、どう対応すべきか一人一人考えてほしい。そうしないと大事な人を傷つけ、被害者を医療機関や支援などにつなげることができなくなります」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2020年1月13日号