米国でのこうした現象に北沢さんは、もともと米西海岸で70年代後半から流行したサウンドの影響が大きいことを認めつつ、こう語っていた。
「一度日本に行って帰ってきた音楽だっていうことにもカルチュラル・エクスチェンジ(文化交流)みたいな面もある」
アートワークにも高い評価
音楽以外の要素も、この現象に影響する。大瀧詠一「A LONG VACATION」(81年)を始め、80年代に「これぞシティ・ポップ」と評されるジャケットの数々を手掛けてきた永井博さん(71)のイラストもその一つ。その仕事が海外で高く評価されていることに気がついたのはSNSを通じてのことだったという。
「ツイッター上で、僕の描いた松岡直也のアルバム『THE SEPTEMBER WIND』(82年)のジャケットが世界中で何十万回も『いいね!』されていましたね。インスタグラムを始めたら、さらにたくさんアップされてるのがわかった」(永井さん)
永井さんのイラストはCGで描かれているようで、実は手仕事。緻密で丁寧な仕事ぶりは、シティ・ポップが注目される要素と重なり合う。韓国や中国からオファーが舞い込む中、米国からは先の「Pacific Breeze」の第2弾でも、イラストの依頼が来ているという。
「街とビーチとヤシの木なんてLAに行きゃいくらでも本物があるのに、なぜか自分の絵に注文が来るんです。『懐かしい』って言ってね。日本の人もそう言うんですよ。不思議だなと思ってます」(永井さん)
その「懐かしさ」の正体には心当たりがある。モダンな都市生活やリゾートに夢やロマンを感じられた時代への郷愁とでも言おうか。かつてあった価値観への憧れと隔たりを同時に感じることで生まれる、どこかふわふわとした心地よさ。いまのジャパニーズ・シティ・ポップの潮流は、リバイバルではなく新しいものとして若いリスナーに届く。そんな「気分」を楽しむことこそ、シティ・ポップといえる。
※AERA 2019年12月23日号