そんな中で舞台裏の菊之助さんを2度ほどお見かけしています。最初は歌舞伎座の廊下を一人で歩いてこられた。その時の「ザ・歌舞伎役者」という感じは忘れられません。
次は、国立劇場の楽屋を息子さんの手を引いて、先輩方の楽屋に挨拶に回られていた姿です。息子さんの手を繋いでいるのもあるのでしょうけど、本当に表情が柔らかくて。同じ役者さんなのにこんなにも違うんだ、と。『国宝』の中でいろんな役者さんを書きましたが、そのように「顔」が一つではない菊之助さんだからこそ、様々な役柄を演じ分けていただけたと思っています。
菊之助さんには本当にお礼を申し上げます。これまでもファンでしたし、ずっと舞台も見せてもらってきました。本当の意味でこれからの歌舞伎を先頭に立って引っ張っていかれる方と同時代で生きている。これ以上の喜びはありません。その姿をこれからも多く見ていきたいと思っています。
(編集部・三島恵美子)
※AERA 2019年12月23日号