■身体に秘められた“謎”と“能力”
これまで入浴シーンでは蜜璃ばかりが注目されてきたが、身体に大きな謎がある「蜜璃と玄弥」という“2人”の特性を示すために、このシーンが必要だったのだろう。
刀鍛冶の里に温泉があれば風呂に入ることに違和感はなく、この場面が挿入されたことによって、これまで秘められていた「玄弥の肉体の変化」が読者・視聴者に自然に提示されることになった。さらに、蝶屋敷ですでに炭治郎が感じていた「玄弥の異様な匂い」を「温泉の匂い」で一時的にかき消す必要があったことも、物語が進むにつれて明らかになっていく。
さまざまな伏線が回収され、『鬼滅』の物語の転換期となる「刀鍛冶の里編」には、謎解きの楽しみが多く含まれる。アニメの放送が待ち遠しい。
◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。