■物議をかもした蜜璃の隊服デザイン
だが、蜜璃はどのタイプにも当てはまらない。それにもかかわらず、連載当時から甘露寺蜜璃が「お色気」担当なのではないか、という声は頻繁に聞かれた。彼女が「恋の呼吸」の使い手であること、入隊理由が「添い遂げる殿方を探すため」ということもその原因だった。ただ、物語が進むごとに蜜璃の人気は高まり、鬼殺にささげる彼女の強い決意と覚悟が読者に伝わるにつれて、そういった声は小さくなっていった。
それでもまだ一部には、入浴シーンと彼女の胸の開いた隊服デザインに関する否定的な意見が残っている。
蜜璃以外の女性隊士たちには、露出が多い隊服を着ている者はいない。栗花落カナヲの場合は、足は出ているものの膝下までのブーツ姿である。蜜璃と同じく「柱」である胡蝶しのぶは、手首から足首まで露出は一切ない。一方で、蜜璃の隊服は胸元が大きく開いており、隊服の裾も太ももスレスレの丈で短い。
コミックス12巻の描きおろし「蜜璃ちゃんの隊服」には、縫製担当の前田まさお(通称・ゲスメガネ)が胸元のあいた隊服を作ったことで、蜜璃が真っ赤な顔で恥ずかしがったというエピソードが収録されている。同じような隊服を渡された他の女性隊士は拒絶しているのだが、蜜璃はそのまま着つづけた。
なぜ作者の吾峠呼世晴氏は、入浴シーンも含めて、蜜璃の身体を強調する描き方をしたのだろうか。
■蜜璃の“特別な”身体
実は彼女は「筋肉」が特殊で、彼女の剣士としての才の秘密は、この優れた身体にある。力強いだけでなく、関節の可動域が広く、柔らかい肉体であるがゆえに、蜜璃の特殊な形状の刀からくり出される技の速度は、男性の「柱」にも引けを取らない。隊服の裾が短いのは誰よりも柔軟な脚関節の可動域を制限しないため、腕をしならせて刀を鞭(ムチ)のように扱う時に、胸元が閉じていない方が動かしやすいという利点もあるだろう。
前田との会話では、隊服をあれほど恥ずかしがっていた蜜璃だが、戦闘中は戦いに集中しており、自分自身の身体を気にするような様子はない。伸びやかに戦う甘露寺蜜璃は、「柱」にふさわしい強さを見せつける。無駄に服が破れて露出が大きくなるなどのお色気シーンは一切ない。豊かで健やかな肉体にも彼女の魅力があることはわかるが、「過剰なお色気」の演出にはなっていない。