1年目に肘を痛め、一時は130キロも出ない苦境を克服した片山は、08年に1軍初昇格。2度目の先発となった7月2日のロッテ戦では、「逃げない」の言葉を胸に刻み、6回1死一、三塁のピンチに、ベニー、ズレータを連続三振に切って取る。9回2死三塁も、今江を遊ゴロに打ち取り、鮮やかな3安打完封でプロ初勝利を挙げた。
「まだ実感がわかないです。1軍で勝ちたい気持ちでやってきた。この3年間はあっという間でした」と初々しいコメントを口にする21歳の若武者に、野村克也監督も「ナイスゲーム!よく踏ん張ってくれた。あの子の真っすぐはスライスする。いわゆる“真っスラ”なんだ。右打者が詰まるのはそれ」と賛辞を惜しまなかった。
だが、その後は相次ぐ故障から15年に打者転向、16年に投手復帰、さらにはトミー・ジョン手術と苦闘を続けた末、育成契約の17年を最後に退団。18年からBCリーグ・埼玉武蔵で主に野手、現在はコーチ兼野手として登録されている。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。