そもそも、知り合いからなんとか精子提供を受けられて妊娠・出産できたとしても、提供者の面会交流権はあるのか、逆に提供者に養育費を請求できるのか、といった生まれた子どもに関連する権利は、まだ法的にカバーされていない。
昨年、彼女がサンフランシスコで開かれたLGBTの国際会議でこどまっぷの代表としてスピーチをした際、会議に同席していたのが、弁護士の加藤丈晴(45)と、ゲイであることを公表して発信する松岡宗嗣(25)だ。2人は口々に言う。
「北米では、ゲイのシングルファーザーに『なんで子どもを育てたい?』と聞くのは愚問。『子どもが可愛いからに決まってんじゃん』と普通に答えますよ。権利意識の強い国だから。けれど、『血縁社会』の日本では、同性同士で子を持つことに対する偏見が根強い。まだ同性婚を議論している段階で、子を持つことは、『同性婚のさらに次』の課題。(長村が)そこにもうアプローチしているのは、かなり先を見て行動されてるなと」(加藤)
「さと子さんが目を向けているのは一貫して、当事者の暮らしなんですよね。地に足がついてる。法律を変えろ!とか拳をあげる活動家じゃない。『こんな社会がいいよね』という考えがじわじわと周りに浸透して、理解者が増えていく」(松岡)
長村の本職は、飲食店の経営者。東京と大阪に4店舗を構え、夜行バスで仮眠をとり往復する日々だ。その上、全国規模の組織に成長したこどまっぷの活動も両立して行う。メンバーは北海道から沖縄まで各地に散らばる。地方でも、講演会場はいつも満席に。情報提供の協力機関は、米国、デンマークなど、海外へも広がる。今月は台湾に赴き、現地の当事者団体と交流を深める予定だ。
エネルギーの源泉は何か? それは、「誰かの居場所をつくること」と長村は言い切る。
「経営もこどまっぷの活動も、私がやってることは全て『場づくり』。私自身、どこにも居場所がなくて、彷徨っていた時期が長かったから」
(文/古川雅子)
※記事の続きは「AERA 2019年11月25日号」でご覧いただけます。