ひとたび目標が定まると、長村は招く相手が海外の人だろうが、有名人だろうがおかまいなし。グイッと巻き込み、企画を形にする。周囲が認める「猪突猛進型リーダー」だ。
でも素の姿は、どちらかといえば人の目を見て話せないタイプで、いつもストリート系のキャップを目深にかぶっている。この日の長村は、厨房に雲隠れし、参加者に提供するサンドイッチを黙々と作りながら、カウンター越しに参加者の様子をじっと観察していた。代わってマイクを握り、英語を交ぜながらの名司会ぶりを発揮していたのは、まみ子だ。まみ子は長村の活動を支える同志でもある。まみ子は言う。
「さと子は大きな地図を描ける人。私たちの活動って、常に荒波の中なんですよ。でも、彼女が行きたい先は、間違いなく波しぶきを越えた『向こう側』にある。未来を想像した時に、どんなに困難が降りかかったとしても、この人の『今』に関わっていたいと思わせるものがありますね」
多様性の時代。イベント名に表記のある「LGBTQ」は最近の呼称だ。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとる「LGBT」に、自分自身の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは定めていない「クエスチョニング(Q)」が加わる。
日本におけるセクシュアルマイノリティーを取り巻く状況は、2015年から大きく変化している。一部の自治体で「同性パートナーシップ制度」が始まり、同性カップルに対して男女の婚姻関係と同等だと認めるようになった。だが、同性のカップルが子を持つことへのハードルは、依然として高い。北米では、同性愛者やシングルマザーが精子バンクから精子を買い、子をつくる選択肢もあるが、日本では日本産科婦人科学会により「婚姻している夫婦で、男性不妊であると診断されている人のみ」と決められている。同学会などの指針では、人工授精など生殖医療に関しても、原則としてがんの治療で生殖機能に影響が出る恐れがある人や戸籍上の夫婦に限定している。LGBTの多くが受診を拒まれる。