単なる先送りに見えるが、安倍晋三首相に近い保守系の論客は思惑があると言う。

「来たるべき時のために、政府の検討俎上に男系維持の方策を載せておくのが狙いだ」

 平成の時代、政権が皇位継承に関して取りまとめて公表した文書は二つある。一つ目が小泉純一郎首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」が女性・女系天皇の容認を求めた05年の報告書。二つ目は野田政権が女性皇族結婚後も宮家を立てて皇室に残れるようにする「女性宮家」の創設を目指し、12年にまとめた論点整理だ。

 いずれも神武天皇からいまの天皇陛下まで、一つの血統により皇統が紡がれてきたとする「万世一系」の思想を重んじる保守派が激しく反発した。今回こそは保守派の支持が厚い安倍首相のもとで、政府の公式文書に男系維持の方策を刻んでおきたい、というわけだ。

 呼応するように、自民党の保守系議員でつくる「日本の尊厳と国益を護る会」(代表幹事・青山繁晴参院議員)は10月23日、提言を発表した。

「二千数百年にわたり変わらず受け継がれてきた、かけがえのない伝統を、ひとときの時代の価値観や判断で断絶することは許されない」

 男系の皇統を守るため、戦後に皇籍離脱した旧11宮家の男系男子孫が、皇族の養子や女性皇族の婿養子となる案や、皇籍に復帰する案を主張した。

 護る会の提言は、安倍首相の考え方とも重なる。

 小泉政権は06年の通常国会で皇室典範を改正し、女性・女系天皇を可能にする方針だったが、同年2月に秋篠宮紀子さま(53)の懐妊が判明し、典範改正を見送った。このとき小泉首相を説得したのが、官房長官の安倍氏だった。

 安倍首相は野党時代、「文藝春秋」(12年2月号)に寄せた論考で、紀子さまの懐妊が少し遅ければ皇室典範が改正されていた可能性があったとして、「後々冷や汗を拭う思いを禁じ得なかった」と述懐している。

「浩宮さまの次の代の皇位継承第一位は愛子さまとなり、悠仁さまが天皇として即位することは永遠になくなっていたかもしれないのだ。皇室の歴史に取り返しのつかない変化を招いてしまった汚名は、後世けっして消えることはなかっただろう」

 そのうえで皇室の現状については、こう記した。

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