人前に立つことに意味があると、はっきり感じられるようになったのだと思います。『平成の終焉』『皇后考』などの著書がある放送大学教授の原武史さんは「災害が日本を頻繁に襲うようになり、天皇の存在感が上がった」と言っています。自分たちは被災者を励ます存在で、つまりいるだけで価値がある。そういう存在だから、自分を見せる、見てもらうことに意味がある。そのことに気づかれたのではないでしょうか。

 皇太子妃時代もその構図は同じだったわけですし、周囲からそのような説明もされていたに違いありません。でも実感できなかった。元々自己肯定感も高かったであろう方が、皇室では自分本来の能力を使う機会もなく、想定外の機能やスペックを求められた。その最たるものが「男子出産」で、できないからとバッシングをされてしまった。

 そのような状態だったのが、皇后になり自身の存在感を実感できた。明るい表情から、地位と自己評価が一致している様子がうかがえます。それは間違いなく、自信になるはずです。

 非常に強い皇后だと感じます。意思と主体性から来る存在感だ、と。上皇后(85)のそれは、宗教的体質によるものだったと思います。共感性が非常に強く、自分を無にできる「巫女的体質」です。戦争体験が大きく影響していると思いますが、近代教育を受けた人がそういう体質を持ちえたことは奇跡のようなものです。

 近代教育は合理の世界です。ハーバード大学でトップクラスの成績を収めた雅子さまが、宮中祭祀のような根拠の曖昧なものに抵抗を感じるのは当然です。一方、意思と主体性のある女性だったからこそ天皇(59)は雅子さまを選び、覚悟をもって守り通しました。でも皇室には非合理性がついて回ります。非合理への抵抗感は、雅子さまには今もあるでしょう。けれど皇后になることで折り合いがつき、この役割を全うするんだという決意ができた。決めてしまえば意志の強い方ですから、貫くことには何のためらいもないと思います。

(構成/コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2019年10月28日号より抜粋

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