さて本書の最後に置かれたのは「清水邦夫『ぼくらが非情の大河をくだる時──新宿薔薇戦争──』を再読しつつ」。作者の名前は「皆川博子」とある。清水作品を引きながら、ここで語られるのは1964年から72年ごろにかけての、デビュー前の皆川さんの経験だ。自身のことを書くのは好まないという皆川さんだから、貴重な文章だといえるだろう。

「(短歌編集者で作家の故)中井英夫さんが記憶について『砂金のように残るいくつかがある』と書いていらっしゃいましたが、ますます、その言葉に共感するようになりました」

(ライター・矢内裕子)

■東京堂書店の竹田学さんのオススメの一冊

『どうして、もっと怒らないの? 生きづらい「いま」を生き延びる術は障害者運動が教えてくれる』は、他者を排除せず共に生きるための対談集だ。東京堂書店の竹田学さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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「どうして、もっと怒らないの?」。これは障害者差別に対して激しい抗議運動を展開した脳性マヒ者の運動団体「青い芝の会」の伝説的闘士・横田弘が、晩年、繰り返し著者に語った言葉だという。

 著者は横田の言葉や障害者運動史を掘り起こし、相模原事件以後蔓延するヘイト表現や差別に対する「まっとうな怒り」を甦らせ、他者を排除せず共に生きるための途を探る。障害者運動を牽引する尾上浩二や川口有美子、「青い芝の会」のドキュメンタリー映画「さようならCP」監督の原一男や横田に薫陶を受けた九龍ジョー、政治学者・中島岳志など、強烈に魅力的な人々との対話は横田らの運動を深く多面的に描き出し、その怒りを現在に共振させる。

 怒りを込めて振り返り、憎悪に染まらず怒りを分かち合う。人間の尊厳を守り闘うための確かな言葉がここにある。

AERA 2019年10月14日号