そんなとき、男性が構成を担当するラジオ番組の司会を務めていた年下のお笑い芸人が自殺する。うつ病の回復期だった。「何もしてやれなかった」。男性は責任を感じた。

 朝起きると、鉛のように体が重い。近所のスーパーに食材を買いに行っても、何を買うのかが決められない。気が付くと、1時間ほど店内をぶらぶらさまよっていた。

 兵庫県出身の男性は95年の阪神淡路大震災を体験した。「志半ばで震災の犠牲になった人がたくさんいるのに、生き残った自分は何もできない」。情けない思いが募った。男性は自殺を考えるようになり、うつ病かもしれない、と自覚した。

 男性を窮地から救った主治医は、週1回の通院のたび丁寧に問診し、薬の量や成分を再調整してくれた。男性が回復を実感したのは5年後だ。発症から8年が経過した今は月1回通院し、構成作家の仕事も再開している。ただ、主治医からは「気力が戻る回復期には自殺の危険がある」と助言を受けている。年下のお笑い芸人も回復期に自殺したことが男性の頭をよぎる。男性は言う。

「主治医の先生頼みでここまできたため、高齢の先生がもし医師を引退されたら……というのが今の一番の不安です」

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 10月7日発売のAERA「うつ抜け特集」では、タレントの渡辺満里奈さんがうつ病を患う夫の名倉潤さん(ネプチューン)に寄り添う日々を初めてメディアに語ったインタビュー、客観的データも活用しながら五つのステップを踏んで回復へと向かう「田んぼ理論」の紹介や、ビジネスパーソン必見のうつの予防や対策に関する専門医のアドバイスなど盛りだくさんで掲載します。(AERA編集部・渡辺豪)

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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