日本人の約15人に1人が生涯に一度は経験するといわれるうつ病。AERAは10月14日号(10月7日発売)で「うつ抜けのロードマップ」を特集します。これに合わせ、AERAのネット会員に協力をお願いし、うつに関するアンケートを実施しました。この中から、回答者に取材した内容を特集号の発売を前に紹介します。
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外出する気力も食欲もなく、自宅にこもり続けたある日。洗面室の鏡に映った自分の顔をふと見た瞬間、「これはダメだ」と男性(55)=大阪府=は悟った。
目の下にくまが浮かんだ生気のない無精ひげの顔。以前、ネットで見たうつ病患者の自画像にそっくりだった。男性は怖くなって、近所の精神神経科の開業医に電話した。「うちは予約不要だからすぐに来なさい」。白髪の好々爺然としたベテラン医師は、すべてを受け止めるように1時間かけて男性の話に耳を傾けた後、静かにこう告げた。
「うつ病ですね」
ごっそりこけた男性の頬にポロポロと涙がつたった。男性はこう振り返る。
「自分が背負っている重しが、病気のせいだとわかって安堵したんです」
医師は「風邪をひいた人がくしゃみをするように、うつの人はあなたのように死にたくなったり、何もやる気が出なかったりします。でも、こうして話をしたり、投薬治療を受けたりすることで楽になっていきますよ」と丁寧に説明してくれた。男性は言う。
「この先生に出会わなければ私は自殺していたと思います。ラッキーでした」
男性は約30年前、フリーランスの構成作家として多忙な日々を送っていた。前に休んだのがいつだったか忘れるほど働き詰めだったが、好きな仕事だったため苦には感じなかった。転機は1999年ごろ。取引企業の方針転換で仕事が激減する。1千万円を超えていた年収はみるみる減り、ほぼ無収入の月も。仕事が減るにつれ精神的に参り、たまに回ってきた仕事の依頼もことわらざるを得なくなる悪循環が続いた。