松重:専門外来作ってくれよ!って思いますね。演じながら看護師さんの言葉の一つ一つに「デリカシーがないなあ!」って憤ったし、理不尽さや、やるせなさを痛感しました。

北川:私も不妊治療について知っていたようで知らなかったことがたくさんありました。一番驚いたのはやはり費用です。

松重:保険が利かないしね。

北川:不妊治療をやめる人の多くは予算がなくなってやめる、という現実を知ってショックでした。命がお金で左右されてしまうということに驚きましたね。それに女性は手術のような準備が必要で、全身麻酔を打ったり、強いホルモン剤を打たれたり副作用がこんなにつらいんだ、とか。でも暗い話ではないんですよね。明るく笑いながら、治療に取り組む人を勇気づけられれば、と思いながら演じました。

松重:この映画に出たと話したら、「実は僕も……」って言う人が周囲にけっこういたんですよ。

――それぞれ実生活でも結婚生活を送る身として、テーマに思うところも多かったという。

北川:私は結婚して3年半で、いま33歳。サチと同じ世代なんです。自分がこの役をやることで多くの人にこの問題について知っていただけるんじゃないかなと思いました。

松重:うちの息子は家を出ましたし、娘もそろそろ出ていくでしょうけど、子どもをつくるということは本当に一大イベントだったんだなと実感しました。うちもね、できない時期があったんですよ。不妊治療とかはしなかったけど、昔はやっぱり女性が一方的に責められていた。ヒキタさんのように「ダメ金玉!」と自分を罵倒できる時代になってきたいまのほうが、まだ女性の荷は軽いのかな。

北川:演じながら、夫婦の問題やぶつかる壁って、子育てのなかでの意見の相違とかも多いのかなと思いました。

松重:まだまだ出産も子育てもどうしても女性が不利なんですよね。仕事を持つ女性は長くお休みしなきゃならないし。

北川:そうなんですよね。

松重:不公平だなあって思いますよ。女性がものすごくリラックスした状態で子どもを心置きなくつくれる状況を社会が作っていかなきゃ、ホントにこの国は滅びるぞって。

北川:それに不妊治療だけじゃなく、どんな家族も夫婦も必ず問題を抱えていますよね。何もない人なんていない。そういうときに力を合わせてやっていく大切さ、みたいなものも映画から伝わればと思うんです。

松重:そのとおりです。妊活で夫婦の間に芽生えた感情は墓場まで持っていけるものだと思う。たとえ最終的に子どもができなくても「新しい命を授かった」と同じくらい、ひとつ大きな宝物を二人で共有したという感覚を持てるんじゃないか。結果じゃなくて過程が夫婦を祝福してくれるんだと思います。

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2019年10月7日号