さいたま市で男児が殺害された事件で逮捕されたのは、一緒に暮らしていた義父だった。親子関係に何があったのか。専門家たちは「親」像にとらわれることの危険性を指摘する。AERA 2019年10月7日号に掲載された記事を紹介する。
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「本当の親じゃないくせに」
さいたま市で9月、小4の男の子(9)が殺された事件。死体遺棄容疑で逮捕された母親の再婚相手、つまり男の子の義父(32)は、男の子にこう言われたと、警察の調べで話したという(送検後は否認)。
「『親子になる』のは時間がかかる。そこを焦って、子どもとの関係がぎくしゃくしてしまうケースは多いようです」
こう話すのは、認定NPO法人・児童虐待防止全国ネットワーク理事長の吉田恒雄さん。子どもが言うことを聞かないときなどに、「『本当の親』になったのだから、厳しくしないと」という気負いが出ることがある。さいたま市の事件も、そんな義父の思い込みが遠因だったのではないか、と指摘する。
東北大学大学院准教授で日本家族心理学会理事長の若島孔文さんも、特に今回のようなステップファミリー(再婚する男女に子どものいる家庭)では、無理に親になろうとしないほうがうまくいくと話す。
「子どもに何か問題が起きたときも、実の親を、義理の親のほうは『友だち』として支えてあげる。そういう立場を取れば、自分が親にならなくても、家族全体としては制御できるんです」
子育てをしていれば、子どもに対して怒りを感じることはどんな親にだってある。そういうときにどの程度、家族というシステムに「制御が利くか」が重要だと若島さんは話す。
「たとえば、子どもとお父さんの間で怒りや葛藤が起きたとすると、『第三者的視点』をとれるのは、親子関係の中のもう一人であるお母さん。父と母が逆の場合もしかりです。この第三者の視点があることが大切」
しかし、父親と母親との間にあまりに「勢力差」「影響力の差」があると、制御できない。