後半28分、松島幸太朗のトライ(撮影/写真部・東川哲也)
後半28分、松島幸太朗のトライ(撮影/写真部・東川哲也)
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 この男がボールを持った瞬間、スタジアムがどよめく。きっと何かやってくれる――。そんな期待のこもった数万の視線が、桜のジャージ14番に注がれる。

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 ラグビーワールドカップ(W杯)2019日本大会開幕ゲームで日本代表初のハットトリックを成し遂げたウイング(WTB)の松島幸太朗。ジェイミー・ジョセフ監督は試合後の会見で、松島を「外からフェラーリが突進していくようだ」と評した。2週間前に行われた南アフリカとのテストマッチ(国同士の代表戦)で負傷したエース福岡賢樹を欠いた日本だったが、松島が存在感を示し、エースに名乗りを上げた。

 最初のトライは7点を追う前半11分。日本がラインアウトから連続攻撃をかけ、センター(CTB)のラファエレ ティモシーがタックルを受けながらも、倒されずに踏ん張ってパスをフルバック(FB)のウィリアム・トゥポウにつなぎ、空いた右スペースを松島が走り抜けた。その後、同34分。インゴール右端に松島がトライを決めたかのように見えたが、ビデオ判定でボールが手からこぼれていたとされ、ノーゴール。がっかりするスタンドの思いに応えるかのように、その4分後に文句なしのトライを決めた。

 後半28分には相手のキックミスからパスをつなぎ、松島がタックルで向かってくる相手を2人振り切ってインゴールに滑り込んだ。3トライを挙げられた要因を自らこう分析する。

「しっかり周りを見ることができて、どこにスペースがあるかというのをチームに伝えることができた」

 前半の立ち上がりから堅さが見られた日本。ところが、松島は「僕は最初から楽しめた。前回大会の経験が生きて、変な緊張はしなかったし、周りも見えていた」と話し、実際に「前半でロシアは結構ひざに手をついて疲れている選手が何人もいたので、後半(勝負)かなという雰囲気もあった」と冷静に試合を観察していた。松島が感じた通り、日本は後半の失点はペナルティゴールの1本に抑え、ロシアを引き離した。終わってみれば30対10。4トライで勝ち点4に加え、ボーナスポイント1も加わり、5ポイントを獲得した。

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「あの言葉が助けになった」