AERAの表紙撮影でも知られる蜷川実花がメガホンをとった映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」が公開中だ。太宰治による同名小説の映画化ではなく、その誕生秘話とも言うべき切り口で事実をもとに脚色。小栗旬演じる太宰と、彼を取り巻く3人の女性(宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ)の艶やかな絡みが、蜷川実花らしい鮮やかな色調のスクリーンの中で妖しく、時に退廃的に描かれている。
【写真】白と赤のコントラストが美しすぎる! 沢尻エリカと二階堂ふみ
そんな「人間失格 太宰治と3人の女たち」の音楽を手がけているのが三宅純だ。現在はパリに暮らす三宅は、米国のバークリー音楽大学に学び、ジャズ・トランペッターとして活動する一方で、CMや広告を含めた大小さまざまな作品を生み出してきた。確かな音楽理論を学び、ヴィム・ヴェンダース監督や、トーキング・ヘッズのヴォーカルとして一斉を風靡したデヴィッド・バーンとも仕事をしてきた三宅は現在60代前半。先輩格にあたる坂本龍一にも匹敵する国際的音楽家と言っていい。2016年開催のリオデジャネイロ五輪の閉会式で「君が代」のアレンジを担当したのも三宅だ。
数々の仕事の中で個人的に最も鮮烈だったのは、11年に公開されたヴェンダース監督のドキュメンタリー映画「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」である。三宅の劇中の提供曲と3D画面との鮮やかなシンクロが、振付家・舞踏家であるピナ・バウシュのフィジカルだけれど、しなやかな動きを見事に美しく昇華させていた。音楽に色はつけられないし、どちらかと言うとバウシュはモノクロームが似合う人だが、三宅の音楽は、バウシュをヴィヴィッドな存在として描いていた。世界的なレジェンドを、あんなに優美に音楽で対象化できる人は三宅くらいではないかと思う。
その時にも似た衝撃が「人間失格 太宰治と3人の女たち」の音楽にも感じられる。ジャズ、クラシック、アンビエント、現代音楽、教会音楽などをクロスオーバーさせた楽曲は、荘厳だったり挑発的だったり妖艶だったりと、表現の幅が広い。だが、総じてそこから滲み出る哀感と寂寞を、少しの諧謔(かいぎゃく)を交えて洒脱に描いているのが三宅らしい。