だが、パスカルズはただ聴き手を和ませるため、癒すための「道具」としてノスタルジックな音を奏でているのではない。むしろ、どんなに厳しい営みでも、どんなに追い込まれた暮らしでも、どんなにゆとりのない毎日でも、豊かな音楽は絶対に必要だ、という主題を伝えている。都心からは離れた場所で、のびのびと日々過ごすことで得られるものの大切さを謳う「凪のお暇」という作品には、そういう意味でもパスカルズが本当にふさわしい。余裕のある人だけが手にできる嗜好品としての音楽ではなく、どんな人にもなくてはならない、生活の中に自然とあるものだという哲学が彼らにはある。
いつのまにか音楽は「エンタメ」という安っぽい言葉の中に収束され、毎月定額で好きなだけ聴くことができるシステムにのみ込まれようとしている。音楽を食べ放題のバイキングのように摂取することも悪くないだろう。だが、パスカルズは一つ一つの素材を大事にしながら調理して一品一品を味わうこと、そしてそれはどんな人間にも必要なことであるというテーゼを、音楽に置き換えて伝えているのだ。
(文/岡村詩野)
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