「大きな木が生えてて、この巣にリスが住んでんねん」
「お花畑に蝶々がたくさん集まってきたんだよ」
楽しそうに物語を語りながら、限られた時間を目いっぱい使って作品を仕上げていきます。
授業の終了時刻が近づき、ついに四者四様のユニークな凧が出来上がりました。
最初は渋っていたあの女の子も自分の凧を見て、満足気な様子です。
凧揚げは次回の授業に実施することを伝えると、「えーーーっ、今から凧を上げに行きたい」という声があちこちからあがります。
せっかく作った凧をすぐにでも試したいという気持ちは当然わかります。
「来週雨やったら凧揚げできへんから、晴れるように祈っといてな!」
お楽しみは来週に持ち越しです。
そして、1週間後。みんなの願いが通じたのか、晴天となりました。
子どもたちは登塾するなり、「早く凧揚げに行きたい!」と口々に私に話しかけてきます。
実は私が天気のほかにもう一つ心配していたことがありました。
それは風の有無です。昨年度のぷれりかクラスでも同様のプログラムを実施しましたが、本番当日は無風で凧が上がらなかったという苦い思い出があったからです。
教室前の道路で自前の風探索器を掲げると、風車の部分がカラカラ回ります。これは期待できそうな予感。それぞれ自分の凧をしっかり脇にかかえ、いざ出発です!
この日の鴨川デルタは人がまばらで、思う存分遊べる状況でした。お互いの凧の糸がからまらないようにそれぞれ少し離れて陣取り、凧揚げを始めます。
しかし、我々はすぐにある問題に直面することになりました。予想以上に風が強いため、凧は上がるものの、その動きを制御するのが至難の技だったのです。
ある凧は風に煽られ、コントロールを失い、危うく川に墜落しそうになりました。
また別の凧はぐるぐる回転してしまい、最終的に地面に落下してしまいました。
壊れた部分を補強したり、凧の足をつけてバランスを改善したりして、ぷれりかキッズは何度も挑戦します。
そんな中、一人の女の子はかなり高くまで凧を上げることができました。
「『メリー・ポピンズ』みたいになっちゃいそう」
上空で凧が受ける風の勢いが強く、自分自身が飛ばされそうに感じるくらいとのこと。本人にとっては大変な状況だったと思いますが、何ともユーモラスな表現でその場の空気が和みます。
正直、今回の天候は凧揚げの条件としては厳しかったように思います。ただ、凧糸を通して感じた風の強さを彼らはこの先もずっと覚えていることでしょう。
「風を捕まえよう!」というミッションをひとまず達成し、ぷれりかクラスは次なる課題に挑みます。(文/山田洋文)
※AERAオンライン限定記事
○山田洋文(やまだ・ひろふみ)/1975年生まれ、京都府出身。教育家。神戸大学経済学部卒。独立系SIerのシステムエンジニアを経て、オルタナティブスクール教員に。2016年4月、京都市内でプロジェクト学習に特化した探究塾の探究堂(http://tanqdo.jp/)を開校。探究堂代表、認定NPO法人東京コミュニティスクール理事。