東京オリンピックでスポーツクライミングが初めて採用される。想像以上にクリエーティブを求められる競技だが、W杯で2016年以来2度目の年間王者に輝いた楢崎智亜選手は、「遊び心を忘れないこと」が一番の強さの秘訣だという。
* * *
6月、楢崎智亜(23)はボルダリングW杯で2016年以来2度目の年間王者に輝いた。
「2回目取れたら本物だと思っていたので素直にうれしかった。年間1位は安定感が出てきた証拠。自信になる」
バネのようにしなやかな上半身の筋肉を使って繰り出す「ランジ」を得意とする。手を伸ばしても届かない遠くのホールド(突起物)へダイナミックに跳び移る。
「強くなればなるほど、自由になる。(壁の)見え方というか風景が違ってくるんです。少し前にこれは無理だろうなと思った動き(ムーブ)が、できるようになる。そうやって自分の限界が上がっていくのが面白い」と目を輝かせる。
違う風景を見られるのは、スランプを越えたからだ。
16年の総合優勝後、勝てなくなった。本人曰く「満足して練習量が減ったから。このままじゃ俺は終わる、って思いました」。
体のコンディションを戻してもまだいま一つ。準決勝で1位通過しても、決勝では考えすぎて勝てないこともあった。そこで、17年シーズンから専門家のもと、本格的にメンタルトレーニングを開始した。
行うのは主にはカウンセリング。自分の不安や思いを話すと、こころの中で「自分会議」を行うことを勧められた。
「自分の中でミーティングをして、自分を掘り下げるんです。なぜ不安なのか?とか、どうしたらいいか?といったことを自問自答するわけです」(楢崎)
大会中に動揺したり、不安になったりすることがあったが、気持ちの波がなくなってきた。
「そのうちに自然体でいることの重要性に気付いたんです。自然で自由でいられるマインドセットが大事なんだと」
そのようなことを練習から意識するだけで変わってきた。メンタルも、フリークライミングのスキルと同じだとわかった。磨けば自分を変えられるのだ。