

東京五輪・パラリンピックまで1年。晴れ舞台を待ち望むのは選手だけではなく、それを支える人々も同じだ。黒衣に徹する彼らを知ることで、パラスポーツの新たな魅力が見えてくる。
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1本のロープでつながる選手へ、走りながら絶え間なく声を掛け続ける。
「もうすぐ左折するよ」
「ペースが落ちているからプッシュしていこう」
「胸を張って空気が入るような姿勢をつくって」
スイム、自転車、長距離走を一気に行い、自らの限界に挑戦するトライアスロン。パラリンピックでも2016年リオデジャネイロ大会から正式競技になった。実は視覚障害クラスでは3種目全てを1人のガイドが伴走する。選手の「目」となるだけでなく、ときに試合展開を読み、勝負をかけるタイミングも判断。選手の力を最大限に引き出しながらゴールへ導いていく。
中澤隆(39)=サイネオス・ヘルス・コマーシャル所属=のガイドを務める原田雄太郎(38)はガイド歴8年。スイムでは互いの足をロープで結び、バイクは「タンデム」という2人乗り自転車の前に乗る。ランはロープでつながった選手のフォームを崩さないよう注意を払って走る。
単に相手に合わせるのではなく、リズムを崩さない範囲でストライド(歩幅)を広げたり、スピードを上げたりするなど常に微調整するため、ガイドは選手以上に高い競技力が必要とされる。原田自身も大学時代、世界選手権に出場した実力者で、中澤は「原田さんと力を合わせてゴールを目指せるのはとても心強い」と絶大な信頼を寄せる。
原田の本業はトライアスロンスクール「チームケンズ」のコーチだが、ガイドはボランティア。遠征費用などの実費は選手のスポンサー会社に出してもらっているが、仕事を休んで帯同するため、選手が出場する全ての大会についていくのは難しい。パラ選手たちの競技環境はだいぶ整ってきたが、これほど高い専門性を持って選手をサポートするガイドは、多くがボランティアだ。