AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【映画「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」の場面写真はこちら】
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映画「シンク・オア・スイム」は、人生の折り返し点を迎えた中年男性8人が、シンクロナイズドスイミング(現・アーティスティックスイミング)の世界選手権に出場。家庭や仕事、人間関係に行き詰まった彼らが、“イチかバチか”の再起にかけるヒューマンコメディーだ。
ベルトラン(マチュー・アマルリック)は2年前からうつ病を患い、会社を退職して自宅にこもりがちな生活を送っている。妻は味方だが、子どもたちから軽蔑され、義姉夫婦からも嫌みを言われる日々。自分でもなんとかしなければと思っていた中、地元の公営プールで男子シンクロナイズドスイミングのメンバー募集を目にする。
この映画が具体的に動きだしたのは、ジル・ルルーシュ監督が、スウェーデンに実在する男性シンクロチームのドキュメンタリーを見たことだった。
「(映画の構想として)特に重要視していたのは、現代社会はうつ病に近い人々が多いということ。フランス全体に感じる倦怠感について語りたいと思っていました。でも、詩的で映画的な側面が欠けていた。そんな時、10年くらい前にシンクロのドキュメンタリーを見たことを思い出しました。自分が伝えたかったことを表現するのに、シンクロがうってつけだと思ったんです」
うってつけの理由は、シンクロが団結の象徴だと思えたからだ。手を繋いだり、一人もはみ出さないように練習したり。シンクロするためには互いを知らなければならず、そのためには語り合い、協力し合い、信頼感を高めていく必要がある。
「それができるようになれば、愛情を持って相手の気持ちに沿って話を聴けるようになります。スポーツ映画は勝負に重点が置かれますが、私は勝負ではなく人物を描きたかった。シンクロという団体スポーツには勝負事ではない、美しさがあると思いました」