光源氏に代表される典型的な平安貴族の生涯は…(写真:gettyimages)
光源氏に代表される典型的な平安貴族の生涯は…(写真:gettyimages)
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『戦国武将を診る』などの著書をもつ日本大学医学部・早川智教授は、歴史上の偉人たちがどのような病気を抱え、それによってどのように歴史が形づくられたかについて、独自の視点で分析する。今回は、源氏物語の光源氏を「診断」する。

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 源氏物語の文献初出は1008年(寛弘5年)。世界最古の長編小説である。

 千年も昔に書かれたものではあるが、物語の構成や主人公たちの精細な心理描写は20世紀文学に近いものがある。主人公「源氏の君」は、桐壺帝の皇子として生まれながら、生後間もなく生母を失い、故あって臣籍に降下し、源の姓を賜る。幼い時から美貌と才知に恵まれ、父帝の妃のひとりで母の面影を宿す藤壺中宮と密通し、冷泉帝をもうける。成人して数多の美女と恋愛遍歴を繰り広げ、王朝人としても最高の栄誉を極める(第一部)が、やがて愛の破綻で無常を覚(さと)り、出家を志す。しかし、源氏や同世代の皇族貴族の子女にあたる宮廷人の恋愛(第二部)、さらに源氏没後も子孫たちの恋は続く(第三部)。

 当時も天変地異や異民族の侵入もあったはずだが、物語は主人公たちの恋愛事情が延々と続く。平安貴族にとっては恋愛と権力闘争以外に興味はなかったとしても、12歳で元服、時の権力者左大臣家の姫君葵上と結婚しつつも、同時期に義理の母と婚外交渉というのは、いくら何でも早熟すぎるように思われる。

■性行動を決める遺伝子

 生物の性行動は、環境因子と遺伝因子双方が関与し、進化の上で最適になるように働く。ヒトの生殖行動を決める遺伝子としてドーパミン受容体DRD4プロモーター多型(新規探索遺伝子)やXp28(同性愛遺伝子)などが候補に挙がっているが、2016年、全ゲノムを網羅的に探索した研究が報告された。イギリスのMRC疫学研究所では、Biobankに登録した12万5667人の男女を対象として、人間の生殖行動に関するゲノム解析をおこなった。遺伝子を網羅的に解析するゲノムプロジェクトも単純な疾患感受性や予後だけではなく、多様な生物学的行動を遺伝子的背景から検討する時代になってきたのである。

 この研究では、被験者の自己申告による初体験年齢と様々な遺伝子多型を解析している。その結果、4600万のSNP(一塩基多型)のうち、男女に共通した33の部位、男性のみでは4遺伝子、女性のみでは1遺伝子において、初交年齢と統計的に正の相関のある遺伝子が見つかった。もっとも、あくまで自己申告なので値の信頼性に若干の問題があるかもしれぬ(一般に男は初交年齢を早めかつパートナーを多めに、女性は年齢を遅めかつパートナーを少なめに申告する傾向がある)。

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