
【左から】澤田瞳子さん(41)『落花』(1650円+税/文藝春秋)、原田マハさん(56)『美しき愚かものたちのタブロー』(1500円+税/朝日新聞出版)、柚木麻子さん(37)『マジカルグランマ』(1500円+税/朝日新聞出版)[写真:日本文学振興会提供(朝倉さん)、古川義高(大島さん)、朝日新聞社(窪さん、澤田さん) 写真部・小山幸佑(原田さん) 門間新弥(柚木さん)]
第161回直木賞の候補者に、全員女性が選ばれた。芥川賞も含めて史上初めてのことだ。エンタメ文学の最高峰だが、個性的かつ多彩な作品が出揃った。
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6月17日、第161回直木賞の候補作が発表され、朝倉かすみさん(58)、大島真寿美さん(56)、窪美澄さん(53)、澤田瞳子さん(41)、原田マハさん(56)、柚木麻子さん(37)と、候補者全員が女性となった。芥川賞も含めて史上初だ。
書評家・ライターの杉江松恋さん(50)はこう語る。
「全員が女性になったのは偶然。候補者としては大変順当で、作品本位の結果です」
実際、候補者は全員が過去に直木賞候補になっているか、直木賞と候補作の傾向が似ている山本周五郎賞を受賞している実力者ばかりだ。
技巧的な作品でコアな読者を持ち、今回地元暮らしの50代男女の恋愛を描いて新境地を拓いた朝倉さん。18世紀ベネチアから江戸時代まで、幅広い題材で意欲的な作品を発表する大島さん。セクシュアリティーや女性性をテーマに人間心理の機微を描く窪さん。歴史時代小説の新たな旗手である澤田さん。自身が身を置いていたアートの世界を舞台にした人間ドラマで人気の原田さん。そして女性同士の関係性をリアルに、時にユーモラスに描き多くの女性読者を獲得している柚木さん。六人六様のテーマと方法論があり、現在の日本のエンタメ文学の成熟を見てとることができる。
書評家・ライターの江南亜美子さん(43)はこう語る。
「文学が男性の仕事であるかのようだった1970年代までに比べて、90年代から女性作家の台頭が顕著です。選考委員に女性が起用されると、女性作家による候補作や受賞作も目立ってきました」
女性初の直木賞選考委員は、87年に就任した田辺聖子さんと平岩弓枝さんだった。現在の選考委員は9人中4人が女性だ(桐野夏生さん、高村薫さん、林真理子さん、宮部みゆきさん)。
「芥川賞に比べてエンターテインメントの要素が強い直木賞ですが、芥川賞候補になってもおかしくない作品もある。文学として、女性の問題、意識が描かれることが多くなった結果、女性作家が増えました。選考委員の割合がイーブンに近づいたという選考構造のアップデートにより、さらに女性の作家が評価されるようになったという流れだと思います」(江南さん)