仕事上のトラブルや人間関係の軋轢に悩むのは、当事者に限らない。周囲も苦悩している。

 ある臨床心理士の女性は、ローテーション勤務でカウンセリングを行っている。相談内容の引き継ぎなど、情報共有が必須だ。だが、「報告・連絡・相談をしておかないと周囲が困る」という想像が全くできない同僚に悩まされている。

 職業柄、女性は発達障害の知識があり、この同僚はその可能性が高いとみている。本人には自覚がない。情報共有について注意した際は、「こんなに頑張っているのに」と逆ギレされた。「周囲が一方的に『発達障害』のレッテルを貼るのは許されないし、危険なことだと思います」と断ったうえで、女性は嘆く。

「発達障害の特性のある人と職場で日常的に接していると、注意しても一向に改善せず同じことが繰り返される状況に、周囲も疲弊してしまう」

 話だけを聞くと、外部は「指導不足」「相性が悪い」などと考えがちだ。「表層しか見えていないのでは」と女性は言う。

 こんなケースもある。

「こんな議論は無意味。あなた、もう辞めたら!」

 会議中、50代の女性職員が突然大声を張り上げた。進めてきた議論を振り出しに戻しかねない剣幕に、周囲は「またか」とうんざりした表情を浮かべる。

 この女性は能力が高く、配属当初は上司も一目置く存在だった。だが、イベントや会議で同僚らと顔を合わせるたび、相手の人格を否定する暴言を浴びせるなど、問題行動を繰り返した。

 周囲には女性への不満がたまっていった。「我慢できない」「もう許せない」「一緒に働きたくない」……。

 60代の先輩職員は、周囲がこの女性にかき乱される様子を目の当たりにした。女性も孤立を深め、やがて離職した。職場の外でこの女性が「自分はアスペルガー症候群だ」と話していたことを、後に知った。

「本人もつらかったはず。プライドや恐れを捨てて、そのことを職場で明かしてくれれば、周囲との摩擦も少しは緩和できたかもしれません。私たちにはもっとできることがあったのでは、と悔やんでいます」(先輩職員)

(編集部・渡辺豪)

AERA 2019年6月24日号

暮らしとモノ班 for promotion
2024年の『このミス』大賞作品は?あの映像化人気シリーズも受賞作品って知ってた?